テーマ1 人との縁を大切に(続き)

 

(神様は努力に対しては公平)

 

前回、人間は本来不平等なものだと何度も説明しました。ただ最後のところで神様は努力に対して公平だともいいましたね。ここをもっと詳しく話します。

貧しく、学校へも行けないで10歳で田舎から大阪へ出て、丁稚(でっち)として働き始めた人がいました。体もあまり丈夫ではなく、20歳前後で独立しましたが、長い間本当に小さな規模の仕事を細々と続けたのです。「人間とは本来不平等」なんだから、そういう人もいるだろうと皆さんは思うでしょうね。でもその人を誰だと思います? 松下幸之助なのです。彼は今の松下電器産業を中軸とする世界有数の松下グループの創始者です。学校へも、ろくに行けず、体力もない。身内に頼れる人も少ない環境から、一代でとんでもなく大きな産業グループをつくりました。同じような話を時間さえあれば、いくらでも皆さんにしてあげられますよ。本田宗一郎(ホンダ)、野口英世、吉田忠雄(YKK)など・・・。単に運が良かったからだなどと言ってはいけない。神様は努力に対し公平なのだと思わなければいけない。

 

これらの人々に共通なことは、仕事を愛していたことかな。いや人一倍愛し抜いていたことでしょう。そして苦しい環境の時、手を差しのべて、いろいろ教えて下さった人々がいたことです。強い良い縁を持ったことです。仕事に限らず、何でも皆さんが愛してやまないものがあると、その神様の贈り物がいつの日か期待出来ます。だからバレーボールを愛して下さい。どんな名選手でも選手生命の終わりとともにバレ−ボールから離れてしまってはそれだけのこと。逆に下手でも指導者として、審判として、ボランティアとして、あるいは観客としてバレーボールに接し続ければ、得る贈り物は年と共に多くなります。

 

僕は大学時代、勉強もずいぶんしっかりやりました。しかし、バレーボールからも多くのものを学びました。例えば、社会へ出て一番大切なものは礼儀、言葉づかいです。皆さんが世の中へ出て、「今度入社した○○君はいいね」と言われるとしたら、それは皆さんの教養とか学識の高さじゃないですよ。第一印象という奴です。これはとても大切なことなのです。しかも第一印象で多くのことが決まるケースは多いのです。得意先へ行っても、「今、忙しいから帰ってくれ」と言われるか、「話だけでも聞こうか」で後の展開が全然違ってしまいます。

 

関西の某大学のマネージャーで、2002年卒業のH君は自動車のセールスマンをしていますが、入社早々から現在までいつも飛び抜けた売上げを記録し続けています。彼はインカレのベンチでの動作だけで、僕の眼にとまりました。何とはない礼儀正しさ、後輩への温かい心づかい等です。彼の成功は相手に与える第一印象だと思います。そして、その第一印象の良さはバレーボールで培ったものだと思います。

 

僕がバレーボールから得たもっと大切なものは、「タイミング」の大切さとその磨き方だと思います。どんないいスイングをしても、キャッチャーミットにボールが収まった後だったら、三振です。試験だって、素晴らしい答案を締め切りの後、書き上げたとしても零点です。当たり前じゃないかと皆さんは言うけど、世の中ではこんな事ばかりしている人の方が多いのです。誰でもいつも絶妙のタイミングはとれません。状況を判断し、これはいつ頃までにやるべきか、たとえ不完全でも手を早く打つべきか等については僕の場合、バレーボールから一番教えてもらったと思っています。ある部で、「あれ、これやらなくちゃ」と忘れていた事を誰かが思い出した時、「あ、それは昨日僕がやっておいたよ」。この対応の早さは、やった人が下級生なら上級生や先輩から特別かわいがられるだろうし、上級生なら下級生から特別な尊敬を受ける存在になるでしょう。ここではバレーボールのうまさなど全く関係なく、一つの社会としてのルールがあるだけです。どの大学にも成績優秀でありながら、世の中へ出てパッとしない人がいますね。このような人は多分、「挨拶・礼儀」と「タイミング」に問題があるのではないかと思います。

 

バレーボールの選手は、自軍コートにボールが入るとそれぞれが動き始めます。この動きはすべて予測です。準備です。そして攻撃へのタイミングを計ります。試合を見ていてここが何より楽しいし、知らず皆さんは社会へ出て、とても大切な仕事の上でのタイミングの磨き方を学び始めているのです。

 

まだまだバレーボールから教えられ、体得したもの(すなわちバレーボールの神様の贈り物)は、沢山あるけれど大切なのは「挨拶・礼儀」と「タイミング<間>」だと思います。ただしタイミングを社会で活用するには、バレーボールのそれより、はるかに高度な技術と「カン<勘>」を要します。皆さんはだから挨拶・礼儀から入りなさい。これを努めて改善するだけで、自分でも驚くほど友人、知人の層が広がります。どの位人生が楽しくなるか、有難い人間関係がつくれるかしれません。名選手もそうでない選手も、40歳になればバレーボールは同じような程度になってしまうけれど、挨拶・礼儀から得た神様の贈り物は毎年蓄積し、一生涯続きます。そして隔差は広がり続けるのです。

 

試合前の練習で、僕のところへ飛んできたボールを取りに来た選手のその挨拶や笑顔から、仲良く口をきくようになったケースが沢山あります。人の縁はひょんな所から始まります。でも本来は、もっと多くの縁があったのだが、知らぬ間に自分の努力不足で切ってしまっているケースが沢山あると思うべきです。今からでも遅くない。挨拶と礼儀正しさをしっかり身につけ、より多くの縁が君の所へくるよう努力して下さい。

 

不平等に生まれついた人間、不思議なことにそれが努力によって、多くの神様の贈り物を通じ消えてしまう。否、消えるどころか、人以上の領域まで自分を押し上げてくれる。その贈り物は、多くは人との縁で作られることを忘れないで下さい。

 

 

(後記)

1回のメールから、思いもよらぬ色々な反響をいただき、驚いています。これからお届けするのは、前回の講演内容のみならず、昨年、一昨年の講演内容も入れつつ、書き直したものです。                               以上